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わずか数年前までは、日本でほとんどその名を聞くことがなかった現代アーティスト、クリフォード・スティル。その名が一気に日本で有名になったきっかけは、恐らく、元ZOZOTOWN社長の前澤友作氏によるスティル作品の落札でしょう。落札価格は約27億円。前澤氏の知名度と高額な落札価格がインパクトを呼び、「いったい誰のどんな作品を買ったんだ?」と作家に注目が注がれることは必然でした。
1904年にアメリカ・ノースダコタ州で誕生したクリフォード・スティル。20代となった1925年にニューヨークを訪れ、この時に初めてアートを学んだそう。のちにスポーケン大学に入学し、1933年に同大学を卒業しています。
1935年には芸術分野の学位を取得。1941年まで、ワシントン州立大学の教員として働いていました。
1943年、サンフランシスコで初めての個展を開催。あわせてニューヨークでも個展を開催するなど、徐々にアーティストとしての活動を本格化させます。
のちカリフォルニア美術学校の教授職や農場経営などと並行し、創作活動を継続。1980年、メリーランド州の自宅にて息を引き取るまで創作に熱心だったと言います。享年75歳。
詳しくは後述する作品をご覧いただければ分かりますが、スティルの作風は、一言で言えば抽象表現主義。しかしながら、ピカソやマティスなどに見られるような伝統的な手法を一切排除して抽象表現主義です。
焦点や枠をイメージせず、自然界にはほとんどない色を使い、パレットナイフによってギザギザと描く抽象画。スティルにしか見られない独自のワールドが、その作品群に貫かれています。
元・ZOZOTOWN社長にして、無類のアート好きとしても知られる前澤友作氏が、2019年に個人購入したスティルの作品がこちら。テレビ番組等でも大きく取り上げられた話題だったので、記憶にある方も多いことでしょう。
落札額は、実に23億2100万円。手数料3億5100万円を加え、最終的には約27億円で前澤氏が購入した作品です。
作品は1946年に制作されたもの。ちょうどスティルが美術館で注目され始めたころの作品です。左右非対称で上下がどちらか分からず、かつ自然界にはないような色使いで斬新なギザギザを描く手法。まさにスティルらしい作品です。
"I never wanted color to be color. I never wanted texture to be texture, or images to become shapes. I wanted them all to fuse together into a living spirit."
(私は色を色にしたくなかった。テクスチャをテクスチャにしたり、イメージを形にしたりしたくなかった。それら全てを一緒にして生きた精神にしたかった。)
"It's intolerable to be stopped by a frame's edge."
(フレームの端で止められることに耐えられない。)
日本国内には、クリフォード・スティルのみの作品を常設する美術館はありません。作品のほとんどは、アメリカのスティル美術館に所蔵されています。
クリフォード・スティルは、生涯のうちに約2,300点の作品を制作したとされていますが、そのうち一般の美術館等に出回っているのはわずか6%。残り94%は、スティル自身の遺言にしたがい、アメリカ・コロラド州のスティル美術館に所蔵されています。スティルの作品を十分に堪能したい方は、アメリカ旅行などの折に、同美術館を訪ねるしかないでしょう。
ただし、スティル作品の息吹だけでも良いから感じたいという方は、滋賀県立美術館を訪ねてみてください。日本で唯一、スティルの作品を所蔵している美術館です(作品1点のみ)。あるいは、一部の方にとっては元ZOZO社長の前澤氏との交友を深めることも、スティルに近づく一法かもしれません。
なお、リサーチする限りでは、過去に日本で企画展などが開催された情報もありません。市場に出回っている作品が少ない以上、日本はもとより世界のどの場所であれ、なかなかスティルの企画展は開催が難しい模様です。
現代アートから骨董・古美術までを扱う「本郷美術骨董館」代表。20歳から草間彌生の作品を集めているコレクターでもある。BSフジで放送中の、若手日本アーティストを紹介する番組「ブレイク前夜~次世代の芸術家たち~」制作提供も行っている。お店では鑑定をするかたわら、テレビ・ラジオなどにも出演し、現代アート界を盛り上げている。
1955年に制作されたとされる「PH-386」。焦点も輪郭もない構図と独特の色彩の操り方は、まぎれもないクリフォード・スティル作品の特徴です。何らかの対象を表現するのではなく、何らかの対象の一部を表現することで全体イメージを導くかのような印象。大自然の一部と言っても、まだ小さいような気がします。永遠に生成を繰り返す大宇宙の一部。これを切り取って表現することで、大宇宙全体をイメージを導いているかのようです。滋賀県立美術館所蔵。