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2021年現在はニューヨークに在住し、精力的に芸術作品を生み続けているルドルフ・スティンゲル。自らが描いた絵画を含め、展示場の空間全体をカーペットで覆い尽くす「インスタレーション」という作風で有名なアーティストです。発泡スチロールやポリウレタンなど、手に入りやすい素材で芸術作品を生み出す作風でも知られています。
1956年、イタリアのミラノで誕生したスティンゲル。のちにニューヨークへ拠点を移し、1980年代後半から、絵画を中心とした数々の作品をリリースしてきました。
彼が描く作品は、大半が抽象画。ジャンルとしては抽象画ながらも、他のアーティストとは一切かぶらない独自の方法論とワールドが展開されている作品を生み出しています。その作品群を目にするや、伝統的な技法による絵画に対する強烈な揶揄、疑問を投げかけているようにすら思えます。
1989年、彼は現代アートの世界に大きな衝撃と議論を巻き起こすきっかけとなった書籍『Instructions』を刊行(詳細は後述)。その内容は、自身の抽象画の制作プロセスを詳細に説明したマニュアルでした。日本語を含めた主要6ヵ国語で刊行されたことに鑑みると、明らかにスティンゲルは、この書籍を通じて美術界に重い一石を投じようとしたのでしょう。
日本では個展や展示会を行っていないスティンゲルですが、自身が拠点としているアメリカやイタリアでは積極的に活動を行っています。1999年と2003年には、世界的に有名な国際美術展「ヴェネチア・ビエンナーレ」に参加。2007年には、ニューヨークのホイットニー美術館で展示会が開催されています。
なお、2007年に行われたホイットニー美術館での展示館の後、以前にも増してスティンゲル作品が注目を集め、彼が手掛けた発泡スチロールのボードのオークション価格は190万ドルまで急騰。その後も、数々の作品がオークションで高値落札を獲得しています。
2008年、スティンゲルは、「ベストモノグラフィックミュージアムショー」(米国美術批評家協会)で全米2位を獲得。65歳という年齢となった2021年現在も、まだまだ現役アーティストとして積極的に活動しています。
スティンゲルの抽象絵画の制作手順をイラスト付きで解説した書籍(作品)。1989年に、イタリア語、英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、日本語の6ヵ国語で出版された書籍です。
書籍の中では、ガーゼやスプレーガンを使った作品作りの工程を詳細に解説。マニュアル通りの手順を踏めば、誰でもスティンゲルの抽象絵画を生み出すことができる、とスティンゲル自身が話しています。
この書籍を著した意図については不明です。「絵画におけるオリジナリティの否定」「絵画の唯一性に対する嘲笑や批判」等々、現代アートの世界に様々な議論を巻き起こしています。
ルドルフ・スティンゲルの作品のみを取り扱っている美術館は、日本にはありません。また、彼の作品を所蔵しているという美術館も、日本では確認できませんでした。過去に日本で展覧会が開かれたという情報も見当たりません。
身近に彼の作品を鑑賞することができないことは残念ですが、一方で、上でも簡単に触れた通り、彼が手掛けた書籍兼作品でもある『Instructions』は、英語やイタリア語と同時に、日本語でも出版されたものでした。彼の頭の中では、大なり小なり、日本という国が気になっているということなのかもしれません。
近い将来、日本でもルドルフ・スティンゲル展が開催されることを願ってやみません。
現代アートから骨董・古美術までを扱う「本郷美術骨董館」代表。20歳から草間彌生の作品を集めているコレクターでもある。BSフジで放送中の、若手日本アーティストを紹介する番組「ブレイク前夜~次世代の芸術家たち~」制作提供も行っている。お店では鑑定をするかたわら、テレビ・ラジオなどにも出演し、現代アート界を盛り上げている。
展覧会場全体を抽象的な模様のカーペットで覆い尽くした、いわゆる「インスタレーション」と呼ばれる作品。会場内の絵画と併せて鑑賞することを目的とした、1990年代のスティンゲルの代表的な作品スタイルです。
様々なカラーで構成されたカーペットを壁や天井、床に張りつめることで、スティンゲルは、絵画と空間の関係性を極限まで探求していたと言われています。