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白髪一雄による《天祐星金鎗手》は、1963年に制作された作品です。本作は、白髪が少年時代から愛読していた中国の古典小説『水滸伝』にちなみ、108人の豪傑の名を1点ずつ冠した「水滸伝豪傑シリーズ」の一作。キャンバス地の中央に、黒・深紅・黄色の絵具が渦を巻くように押し寄せ、その周囲に飛沫が散る構成となっています。厚く盛られた絵具のうねりや、キャンバスを斜めに横切る勢いのある筆致から、フット・ペインティングならではの身体の動きがそのまま画面に写し取られていることがわかります。
タイトルの「天祐星」は水滸伝の英雄・徐寧(じょねい)の宿星、「金鎗手」は徐寧のあだ名で、鎗(そう)や鉤鎌鎗(こうれんそう)を使いこなす名手として梁山泊で活躍した人物にちなんでいます。
「水滸伝豪傑シリーズ」の作品は完成後にタイトルが付けられているため、徐寧の姿を直接描いたわけではありません。ただ、あだ名の由来を知ってから改めて画面を眺めると、斜めに駆け抜ける勢いのある筆致が、鎗を振るう武将の身のこなしと重なって見えてくるようです。
白髪一雄(しらが かずお)は1924年、兵庫県生まれ。京都市立絵画専門学校(現・京都市立芸術大学)で日本画を学んだ後、戦後日本の前衛美術を代表する画家の一人として活動しました。1955年には吉原治良が率いる前衛グループ「具体美術協会」に参加し、独自の身体表現を追求していきます。
白髪の代表的な手法である「フット・ペインティング」は、天井から吊るしたロープにつかまり、足で絵具を広げていく制作方法です。画面の上を滑るように動きながら描かれる作品は、絵画を単なる視覚表現に留めず、身体の運動そのものを記録しています。
厚い絵具の層や激しい筆致には、作家の身体の動きと時間が直接的に反映されており、《天祐星金鎗手》をはじめとする「水滸伝豪傑シリーズ」でも、その特徴が色濃く表れています。
《天祐星金鎗手》は、広島県広島市南区にある広島市現代美術館に所蔵されています。1989年に開館した、日本で最初の公立現代美術館です。建築家・黒川紀章による設計で、比治山公園の高台に立っています。
コレクションは、第二次世界大戦後の現代美術を軸に、およそ1,700点。「戦後の現代美術の重要な流れを示す作品」「ヒロシマと現代美術との関連を示す作品」「若手作家による将来性のある作品」の3つを収集の柱に掲げており、白髪一雄をはじめ、ヘンリー・ムーア、フランク・ステラ、アンディ・ウォーホル、草間彌生など、国内外の作家の作品を所蔵しています。
所蔵作品は入れ替え制のコレクション展で紹介されるため、《天祐星金鎗手》が展示されているかは会期によって異なります。作品を目当てに訪れる場合は、事前に公式サイトで展示情報を確認しておくと安心です。