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「現代アートの作品が◯億円で落札」というニュースを見て、「なんでそんなに高いの?」と思ったことはありませんか。シンプルな形の彫刻や、色を塗っただけに見える絵が、家が何軒も建つような金額で取引される。不思議に感じるのも無理はありません。
実は、アート作品の価格は、思いつきで決まっているわけではありません。作品が売買される「市場」の仕組みと、価格を左右するいくつかの要素があります。
この記事では、現代アートの価格がどのように決まるのかを、初心者向けにやさしく解説します。
2019年5月、ニューヨークのクリスティーズで行われたオークションで、ジェフ・クーンズのステンレス彫刻《ラビット》が約9,100万ドル(当時のレートで100億円前後)で落札されました。存命作家の作品としては、当時のオークション史上最高額です。
このように、ニュースになる超高額取引の多くは「オークション」での落札価格です。オークションは、ほしい人同士が競り合うことで価格が上がっていく仕組みのため、人気が集中する作品では、ときに驚くような金額になります。
また、発表される落札額には、落札者がオークションハウスに支払う手数料(バイヤーズ・プレミアム)が含まれていることが一般的です。
億単位の取引はあくまでごく一部。世界中で売買されている現代アートの多くは、もっと身近な価格帯です。
若手作家の小さな作品や版画などは、数万円から購入できるものもあります。「現代アート=超高額」というイメージは、ニュースで目立つ一部の取引によって作られている面が大きいのです。
アート作品の取引は、大きく「一次市場」と「二次市場」に分けられます。
作品が初めて売られる場が一次市場です。主な担い手はギャラリー(画廊)で、作家から作品を預かって展示し、コレクターに販売します。
ギャラリーは、作家の展覧会を企画したり、美術館やメディアに作家を紹介したりと、作家のキャリアを長期的に育てる役割も担っています。一次市場での価格は、作家の経歴や実績、作品のサイズなどをもとに、ギャラリーと作家が相談して決めるのが一般的です。
一度コレクターの手に渡った作品が、再び売買されるのが二次市場です。オークションハウスや美術商(画商)などを通じて取引されます。
二次市場では、その作家の人気や需要がダイレクトに価格に反映されます。人気が高まれば一次市場の価格を大きく上回ることもあり、逆に需要がなければ下回ることもあります。
一般的な流れをまとめると、次のようになります。
ニュースで話題になる高額取引の多くは、4の二次市場で起きています。
作品の価格は、主に次のような要素が組み合わさって決まります。
最も大きな要素は、作家がどれだけ評価されているかです。
こうした実績が積み重なるほど、作家の評価は高まり、作品の価格にも反映されていきます。
同じ作家の作品でも、価格には大きな差があります。
その作品がこれまで誰に所有されてきたかという履歴も、価格に影響します。著名なコレクターや美術館が所蔵していた作品は、評価が高まることがあります。
来歴がはっきりしていることは、作品が本物であることの裏づけにもなるため、取引の際には重要視されます。
世界に一点しかない作品(ユニーク・ピース)か、版画のように複数制作された作品(エディション作品)かによっても、価格は大きく変わります。同じ作家でも、一点ものの絵画と版画では、価格に大きな差があるのが一般的です。
作品の「価格」は、市場で売り買いされる金額です。一方、作品の「価値」には、美術の歴史の中でどれだけ重要か、どれだけ多くの人の心を動かしたか、といった、お金では測れない側面もあります。
生前はほとんど評価されなかった作家が、亡くなった後に美術史上の重要性が認められ、作品の価格が大きく上がる、ということもアートの世界では珍しくありません。価格が高いから価値がある、価格が低いから価値がない、とは一概に言えないのです。
アートの価格は、景気や流行、話題性にも左右されます。一時的なブームで価格が急上昇した作家の作品が、その後落ち着いた価格に戻ることもあります。
価格の動きだけに注目するのではなく、作品そのものの魅力や作家の活動を長い目で見ることが大切です。
現代アートの価格や評価は、さまざまな立場の人の関わりの中で形づくられています。
一人の作家の評価が高まっていく過程には、こうした多くの人の目と判断が関わっているのです。
世界のアート市場の中心は、アメリカやヨーロッパ、そしてアジアでは香港などです。こうした地域では、個人や企業がアート作品を購入し、生活の中に取り入れたり、コレクションとして築いたりする文化が根づいています。
一方、日本では「アートは美術館で見るもの」というイメージが強く、作品を購入する人は欧米に比べて少ないと言われてきました。ただ近年は、アートフェアの盛り上がりや、若い世代のコレクターの登場、レンタルやサブスクリプションなど新しい関わり方の広がりによって、アートを「持つ」ことへの関心も少しずつ高まっています。
アート作品の中には、購入後に価格が上がるものもあります。しかし、価格が下がることや、売りたいときにすぐ買い手が見つからないこともあります。また、売買には手数料などのコストもかかります。
アートの購入は、まず「その作品が好きか」「手元に置いて楽しみたいか」を基準に考えるのがおすすめです。資産としての側面を考える場合は、専門家に相談し、リスクを十分に理解したうえで判断してください。
ギャラリーで販売されている作品は、ギャラリーに問い合わせれば価格を教えてもらえます。オークションの落札結果は、各オークションハウスのウェブサイトで公開されていることがあります。手持ちの作品の価値を知りたい場合は、美術品を扱う専門店に査定を依頼する方法もあります。
必ずしもそうとは限りません。同じ作家でも、作品のシリーズや制作年、サイズ、状態、版画か一点ものかなどによって、価格の動きは大きく異なります。
現代アートの価格は、決してでたらめに決まっているわけではありません。
仕組みがわかると、高額落札のニュースも「なぜこの作品が?」と、少し違った目で見られるようになるはずです。そして、現代アートは決して億単位の世界だけのものではなく、手の届く作品もたくさんあることを、ぜひ覚えておいてください。