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「憧れの作家の作品を、いつか手元に置いてみたい」。そう思ったとき、身近な選択肢になるのが「版画」です。
世界に一点しかない原画に比べ、版画は同じ図柄が複数制作されるため、比較的手の届きやすい価格で流通しています。草間彌生やアンディ・ウォーホルなど、現代アートを代表する作家も、数多くの版画作品を残しています。
一方で、版画には独特のルールや用語があり、「ポスターと何が違うの?」「余白に書かれた数字は何?」と戸惑う人も少なくありません。この記事では、版画を楽しむ・選ぶうえで知っておきたい基礎知識を解説します。
版画とは、木や金属、石、網目状のスクリーンなどで「版」を作り、その版にインクをつけて紙などに刷り取る作品のことです。一つの版から同じ図柄を複数刷ることができるのが、原画との大きな違いです。
ただし、版画は単なるコピーではありません。作家が版の制作や刷りの工程に関わり、仕上がりを確認したうえで、一枚ずつサインや番号を入れるのが一般的です。刷られた一枚一枚が、それぞれ独立した「作品」なのです。
現代アートと版画は、とても相性のよい関係にあります。
たとえばアンディ・ウォーホルは、シルクスクリーンという版画技法を使い、マリリン・モンローやキャンベルスープ缶のイメージを繰り返し刷りました。大量生産・大量消費の時代を映し出すうえで、「同じものを複数作れる」という版画の性質そのものが、作品のメッセージと結びついていたのです。
また、版画は原画より多くの人の手に渡るため、作家にとっては作品を広く届ける手段にもなります。
版画を選ぶときに注意したいのが、「オリジナル版画」と「複製(印刷物)」の違いです。
見た目が似ていても、作品としての位置づけは大きく異なります。作家のサインが入っていても、オフセット印刷による複製の場合もあるため、「どのような技法で、どのように作られたものか」を確認することが大切です。
版画は、版の仕組みによっていくつかの種類に分けられます。代表的な技法を見ていきましょう。
網目状のスクリーン(版)に、インクが通る部分と通らない部分を作り、上からインクを押し出して刷る技法です。
特徴:ムラのない、均一で鮮やかな色面を表現できます。色ごとに版を分けて刷り重ねるため、くっきりとした色の境界が生まれます。ポップアートとの相性がよく、ウォーホルをはじめ多くの現代アート作家が用いています。
水と油が反発し合う性質を利用した技法です。石版や金属板に油性の画材で描き、版面を湿らせてから油性インクをのせると、描いた部分にだけインクがつきます。
特徴:クレヨンや鉛筆、筆で描いたような柔らかいタッチや、繊細なグラデーションを表現できます。画家の描いた線の味わいを生かしやすい技法です。
銅などの金属板に線を刻み、その溝にインクを詰めて、強い圧力で紙に写し取る技法です。エッチングは、薬品で金属を腐食させて溝を作る方法です。
特徴:シャープで繊細な線を表現できます。強い圧力で刷るため、紙に版の縁の跡(プレートマーク)がくぼみとして残るのが見分けるポイントの一つです。
木の板を彫り、残った出っ張り部分にインクをつけて刷る技法です。日本の浮世絵もこの仲間です。
特徴:木目の風合いや、力強い線が魅力です。
高精細なインクジェットプリンターを使って出力する、比較的新しい手法です。作家が色味などを監修し、サインやエディション番号を入れたものが作品として流通しています。
特徴:原画の色や質感を細かく再現できます。一方で、伝統的な版画技法とは制作方法が大きく異なるため、版画としての位置づけについてはさまざまな考え方があります。
| 技法 | 版の種類 | 見た目の特徴 |
|---|---|---|
| シルクスクリーン | 孔版 | 均一で鮮やかな色面、くっきりした色の境界 |
| リトグラフ | 平版 | クレヨンや筆のような柔らかいタッチ |
| エッチング | 凹版 | 繊細でシャープな線、プレートマーク |
| 木版画 | 凸版 | 木目の風合い、力強い線 |
| ジクレー | デジタル | 原画に近い細かな色の再現 |
版画作品の余白(多くは画面の下)には、鉛筆で数字やサインが書き込まれていることがあります。これらは作品の素性を知るための大切な情報です。
分数のような数字は、エディション番号です。
つまり「25/100」は、「全100部のうちの25番目」という意味です。総部数が少ないほど、作品の希少性は高くなります。
エディション番号の代わりに、アルファベットが書かれていることもあります。これらは、通常のエディションとは別枠で刷られた特別な作品です。
これらは通常のエディションより少ない部数で作られるのが一般的です。
版画の余白には、エディション番号のほかに、作家のサイン、制作年、タイトルなどが書かれることがあります。一般的には、左下にエディション番号、右下にサインと年記、中央にタイトル、という配置がよく見られますが、作家や作品によって異なります。
また、サインには「鉛筆などによる直筆サイン」と「版の中に刷り込まれたサイン」があります。作家が一枚ずつ確認したことを示すのは、一般的には余白の直筆サインです。
版画作品を購入するときは、次のポイントを確認しておきましょう。
全部で何部刷られた作品かを確認しましょう。同じ図柄でも、エディション数によって希少性や価格が変わります。
紙の作品は、光や湿気の影響を受けやすいデリケートなものです。
額に入っている場合は、額装による劣化がないかも確認しましょう。
作品によっては、作家のスタジオや鑑定機関が発行する証明書が付属していたり、来歴(これまでの所有者の履歴)が記録されていたりします。こうした書類は、作品の信頼性を裏づける大切な材料になります。
購入する際は、実績のあるギャラリーや美術商など、作品について十分な説明をしてくれる販売元を選ぶことが大切です。作品の技法やエディション、状態について質問したときに、きちんと答えてもらえるかどうかも判断材料になります。
人気作家の版画は、残念ながら偽物や、オリジナル版画と誤解されやすい複製品が出回ることもあります。相場より極端に安い作品や、出どころがはっきりしない作品には注意が必要です。
不安な場合は、購入前に美術品の専門家に相談することをおすすめします。
版画を手に入れたら、長く楽しめるように環境にも気を配りましょう。
一般的には、番号の大小で価値に大きな差がつくことは少ないとされています。ただし、作品によっては若い番号が好まれる場合もあります。番号よりも、作品の状態や来歴のほうが重要視されることが多いでしょう。
一概には言えません。サインのない版画でも、作家の生前に刷られたものや、限定で制作されたものなどは評価されることがあります。ただ、サインの有無は価格に影響することが多いため、購入時には確認しておきましょう。
人気作家の版画は、二次市場で価格が上がることもあります。一方で、価格が下がることもあります。版画は、まず「好きな作品を手元に置いて楽しむ」ことを第一に選ぶのがおすすめです。
版画は、憧れの作家の作品を身近に楽しめる、魅力的な選択肢です。
余白の小さな数字やサインの意味がわかると、版画作品を見る目がぐっと変わります。美術館やギャラリーで版画を見かけたら、ぜひ余白にも目を向けてみてください。